【累々舎】京庵・お題02

累々舎

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First Contact

どこか人間離れした、朱が混じる琥珀の双眸が放つ眼光が自分に焦点を据えた瞬間から――
その眼光の持ち主たる赤い髪の男、八神庵が発するであろう言葉など、京には予想がついていた。

――御伽噺めいた逸話が残る、発火能力を有する一族の頂点に立つ者として生まれ。
幼少において既に歴代最強と冠されるほどの天賦の才と、おまけに容姿にも恵まれた京にとって、憎まれることなど、羨望や憧憬の対象として注視されること以上に慣れていた。
そんな嫉妬混じりの憎しみなど、気にもかけない――たまに気が向けば、鼻で笑い飛ばすか足蹴にするか……、ぐらいの、傲岸不遜を地でゆく京が。

八神庵の、眼光だけは。
真正面で受け止め、睨め付け返すことしか、出来なかった。

赤い髪から覗く、精微過ぎる白磁の半顔は静謐、ですらあるのに。
透き通るような琥珀の眼から放たれるのは、まさに目は口ほどに、というほどの。
恐ろしいほど濃密な――純度百パーセントの、憎悪。
視線同様、闇夜を引き連れるような禍々しい気配に内包するのは、正真正銘の、殺気。

それは、あまりにも苛烈で。それゆえに、いっそ清冽ですらあり。
だからこそ――京は、庵から目線一つ動かせず、魅入ってしまったのだ。

「草薙京、貴様を殺す……」

衆人看視の中で、そう庵が宣告した言葉を。
京は、魂ごと奮え立つ狂喜を以て身の裡に摂り込んでいた。
たとえそれが負に属するものであろうとも。ただ一念の凄絶さは――美しいとさえ、言えて。
それが。他の誰でもなく、自分のみに注がれているのだ。
その実感が、京を酔わせた。

「――面白れぇ。やれるもんなら、やってみろよ……」

酩酊のまま。京はくっきりとした二重瞼の黒瞳を燃え滾らせ、艶めいた低音の声で返すと。
庵は薄い唇をアルカイックに吊り上げて艶然と笑った。


魅入ったのか、魅入られたのか……、否。
――魅入り、魅入らせ。
互いに映すは、もはや互いの存在だけ……。




お題:あなたしか見えない(Pola star
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